色欲<Wollust>
「宵闇に朽ちた楽園 吊された屍達
君は何故この境界を越えてしまったのか。
さぁ、唄ってごらん」
朧気な…記憶を…辿って…
曖昧な…自分を…描いた…
どんな…顔で…笑い…どんな…声で…歌ったのか…
お気に入りの…白い…華飾衣<Kleid>が…何故…こんなに…緋いのか…
嗚呼…そうだ…私は…
彼に…殺されたんだっ…た……
伯爵は何時からか 青髭と呼ばれていた
私が嫁いだ時分には もう既に呼ばれていた
あんなにも優しい眼差しが 昏い色を帯びたのは
染み付いた鉄の匂いと 血の匂いのせいかしら?
嗚呼 夫は私を愛してない 気付かない振りしてきたけれど
もう これ以上は偽れない 私は誰よりも愛していたから
過ぎ去った季節の 長い夜の中で 貴方の瞳の奥で
抱かれていたのは 愛されていたのは 本当は誰なのかしら?
決して戻せない季節も 長い闇の中で 禁じられた部屋の奥で
寂しさ埋めるように 虚しさ燃やすように 不貞<いろ>の罪を重ねた嗚呼……
誓いを破られたことに腹を立てたからなのか、
愛していたからなのか、今ではもう分からない。
最初の妻を殺したとき、理性も共に死んだのか、
新しい妻を娶っては犯し、犯しては殺した……。
「やめて!やめて!」
「へい、跪け!」
「靴を舐め!」
「????」
「座れ!」
「もうやだ、ああ、いやあああああ!」
「?????いやああああ…」
「そうだ、泣け!喚け!」
どれ程 信じて祈っても 救ってなどくれなかった……
例え相対者<相手>が神でも 唯 穴<Loch>さえあれば 嗚呼 貫いてくれよう……
《私の槍で》<ロンギヌス>!
「君を魔女として断罪した、恩知らずな豚共を、
私は赦しはせぬぞ!」
「なるほど。それで君は…いや、君達は吊された訳だね。
この禁じられた秘密の部屋に。
流された血は、宵闇に流される血で購うのさ。
さぁ、復讐劇を始めようか」
彼の留守の間に 宝部屋を回る
開けたことのない 部屋が気になっている
娘の耳元で 私はこう囁いた……
「黄金<きん>の鍵の、禁じられた部屋には、
取って置きの宝物が隠されているわ……」
そう その鍵穴に 挿れたら 回せばいい
もう すぐ出ちゃうでしょ 私達の【屍体と衝動<イド>】
「きゃあああああああああああ!」
嗚呼 女が本当に抱いて欲しいのは 肢体<からだ>ではなく魂<こころ>なのよ
罪な人ね でも 愛しい人よ
哀しみは 憎しみじゃ 決して癒せないわ
宵闇に唄が 響くだけ
貴方の喜劇を今 終わりにしよう!
「秘密の部屋の鍵は何処だ?」
「???」
「ほほう、私の命令に背くか」
「よかろう、そんなに??ればいっそこれで今日からお前もあの部屋の置物だ」
「せめて、死ぬ前にお祈りをさせてくださいませ…!」
「ハハハ、よかろう」
「助けて!兄さん!」
「まだか、早くしろ!」
「早くしろ!」
「ええい!もう我慢ならん!」
「いやあああああああ!」
「ぐおお!」
「兄さん!」
「くそ、化け物????」
「さあ、こっちへ!」
「復讐というのも、歪な愛情の形なのかもしれないね。
それでも、何故人間て愛と性欲を切り離せないのかしら。
気持ち悪いわぁ!」