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怠惰<Tragheit>

 

 

「おや、君も落ちてしまったのかい?

初対面の筈だが、この奇妙な親近感は、一体何処からやってくるのだろうね。

まぁいい。君は何故生と死を別つこの境界を、越えてしまったのか。

さぁ、唄ってごらん?」

 

 

陽が昇り        嗚呼        汗塗れ        炊事洗濯全て        私の仕事

嗚呼        意地悪な        寡婦<はは>の口癖

 

「追い出されたいのかい?この愚図っ!」

なんて言うけれど――

 

私は今日も        お父さん<Vati>        頑張っているよ!

 

 

 

陽が落ちて        嗚呼        塵まみれ        炊事洗濯全て        押し付けた

嗚呼        性悪な        妹の口癖

 

「言い付けられたいのかい?この愚図っ!」

なんて言うけれど――

 

私は明日も        お父さん<Vati>        頑張っているよ!

 

 

 

「父は舟乗りだったのに、何故か井戸に落ちて死んだらしい。

だから私は、あまり井戸が好きではない。

それでも継母は、容赦などしないのだ……。」

 

 

井戸の傍で、糸を紡ぐ、指先はもう……

嗚呼、擦り切れて緋い血を出して、

紅く糸巻きを染め上げたから

洗い流そうと井戸を覗き込んだら、

水に焦がれる魚のように手から飛び出して、

その糸巻きは、井戸の底に沈んだ。

悲恋に嘆く乙女<Loreley>、正にそんな勢いで――

 

 

泣きながら帰った私に容赦なく、継母は言い放った――

「この愚図っ!潜ってでも取ってきなっ!じゃなきゃ晩飯は抜きさっ!」

「この愚図っ!」          「取ってきなっ!」               「晩飯は~抜きさっ!」

 

道急ぐ背中に、宵闇が迫っていた……

 

 

「どうしよっか、お父さん<Vati>!最悪、そっちに行きます!セイッ!」

<drei…zwei…eins>

 

「なるほど、君も中々健やかに悲惨な子だねぇ。

復讐に迷いがあるのなら、時間をあげよう。

この教会の古井戸の中で、もうしばし、

憾みについて考えてみるといい」

 

 

 

目覚めれば綺麗な草原。

幾千の花が咲き誇る。

異土へ至る井戸の中で、衝動<イド>を抱いた男<イド>に遇って、彼の指揮で憾み唄った。私は――

死んじゃったの?天国なの?気の【ceui】なの?分からないわ。

大丈夫!でも私は頑張るよ!お父さん<Vati>、何時だって!

 

 

「こまっちゃった。あたしを、ひっぱりだしてぇ。ひっぱりだしてぇ。

もう、とっくのむかしにやけてるんだよぅ」

「マジでぇ?」

「こまっちゃった。ぼくを、ゆすぶってぇ。ゆすぶってぇ。

もう、みんなじゅくしきってるんだよぅ」

「わお!」

 

喋るパンの願いを聞いて

シャベルで全部        掻き出してあげたわ

「いぇい☆」

 

 

そして――

ひとつ残らず        実が落ちるまで        林檎の木を揺らし

 

 

その後――

散らばる林檎を        積み上げるだけの        簡単なお仕事

「ふぅーっ☆」

 

「Baβ!」

「しゅびどぅびどぃびどぅー」

「Gitarre!」 

「Klavier!」

「Danke schön!」

「元気のいい子だねぇ…」

「キャー!」

「アハハハハハッ、怖がらなくていいのよ」

「あっ、貴女は、ひょっとしてあの、

お伽話によく出てくる、ホレおばさん!?」

「まぁ、口の悪い子ねぇ。おばさんじゃなくて、お姉さん、と呼びなさい」

 

 

「形あるモノは、いつか必ず崩れ、

命あるモノは、いずれ死を迎えるのさ

これまで、よく頑張ったね。お前は強い娘<こ>だね。

でもこれからは、私のもとで働くなら、きっと幸せになれるわ!」

 

 

「うんっ、私頑張るっ!」

 

 

嗚呼        綺麗に舞い散る羽布団        振るうのが新たな私の仕事

嗚呼        地上に舞い落ちる雪の花        降るのは灼かな私の仕業

 

「キミが、もし冬に逢いたくなったら、私に言ってねぇん♥」

 

 

「あいたっ!」

「これ!調子に乗るんじゃありません!

けれどまぁ、あなたも今日まで、陰日向無くよく働いてくれたわ。

帰郷の願い、特別に叶えてあげましょう。ホレッ!」

 

 

大きな門が開くと        黄金<きん>の雨が降ってきて

あっという間に        全身        覆った……

 

 

 

「それは君の働きに対する報酬だ。

まぁ、遠慮なく貰っておきたまえ。

もっとも、君の勤務態度が不真面目だった場合、

別のものが降ってきていたのかもしれない……」

 

 

 

「キッケリキー!うちの、黄金<きん>のお嬢様のお帰りだよぅ」

「ただいまぁーっ!」

 

 

日が替わり        嗚呼        黄金<きん>塗れ        炊事洗濯全て        やらなくて良い!

嗚呼 低能な        継母の入れ知恵

 

「貴女も貰っておいで《可愛い実子》<チィちゃん>」

「うん、あたい、がんばる…」

なんて言うけれど――

 

 

やれるものなら        どうぞ        頑張っておいで!

 

 

「さぁ、復讐劇の始まりだ!」

 

 

「キッケリキー!うちの、バッチィのお嬢様のお帰りだよぅ」

 

日が過ぎて        嗚呼        瀝青<チャン>塗れ

ほら        怠惰な態度が        貴女の罪よ        自業自得だわ        ねぇ――

 

 

これからは貴女も        必死に頑張ってみなよ!

「やだ!取れない!取れないよ!やだやだやだ」「待ってよ」

「取って取ってよ!やだやだやだ!」

「??じゃ???ないよ、チィちゃん」

「??、どうしてこんな酷い目に!?」

 

 

 

「今回は随分とかわいい復讐だったねぇ」

「あらぁ、一生チャンまみれなんて、

 女の子に取っては死ぬより辛い罰だわぁ!アッハハハハ!」

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